新しき門出

1学年に二度も転校する様な典型的な転勤族の娘に生まれた私は<引越しの荷物になるから>と言う理由で生涯お雛様を持つ事が出来ませんでした。
そんな娘が哀れと思った父が小学校3年の時ボーナスをはたいて、少し名のある画家の 立ち雛 の掛け軸を買ってくれました。
「この掛け軸一本で立派な七段飾りのお雛様が買えるぐらい高かったんだぞ」と言われても私は内裏様だけでも良いから人形雛の方が欲しかった。年を経ること80年。結婚もしなかったので孫娘に贈るすべもなく、生涯お雛様とは無縁のままでした所が、愛の里で暮し始めると、桃の節句が近づくとロビーは勿論各階のエレベーター前の休憩所まで様々なお雛様で埋め尽くされました。
ホームで用意したのも、入居者の持ち込んだのもあるのでしょうが此処を終の棲家と決めたからは全部我が家のお雛様。通る度に飽かず眺めています。予告が有って楽しみに待っていた雛祭り当日の夕食はご覧の通り。箸を付けるのがためらわれる程の豪華版。流石に口の中でぴちぴち跳ね回る白魚だけは遠慮しましたが。皆さんは大喜びでした。