2010-01-01から1年間の記事一覧

日本語は縦書きを

私の学んだ女学校は毎週日記の提出が課せられていたのですが、怠け者にとってはかなりの重圧で、いやいや時間割を確かめながら一週間の溜め書は当たり前。それもさぼって度々職員室でお目玉を食っていました。それが5年間続くと恐ろしいもので、歯磨きと同…

片鬢、片眉毛

母方の祖母は万延元年一月生まれ。末っ子である母を気遣ってか四六時中家に来て、私にとっては歴史上の出来事としか思えない様な話をいくつも語ってくれました。これもその内の一つです。≪おばあちゃんの子供の頃はなー大雨で土手が崩れたりすると役人が、大…

祖母の山小屋で逢った鉱夫

昭和30年前半の初秋の頃だったと思います。「祖母山に行かないか」との声が掛かりました。2ヶ月程前、従兄弟に連れられて生まれて初めて遠足の山登りでない本式の登山を始めたばかりなのにたった一度で山の魅力の虜になり寝ても覚めても山、やま、ヤマ、の状…

私の故郷

「おくには?」と聞かれてパット頭に浮かぶのは何年かに一度先祖祭りの為に訪れる北九州でもなければ戦後60余年を過ごした関西でもない。薄絹を張ったように澄み切った青空、藁葺きの屋根に干された真っ赤な唐辛子。それはソウル。今までの長い人生に比べれ…

叱るばかりが能ではない

非常事態が起きた時咄嗟の判断が生死を分けることも有り得ます。例えば子供に「池や川のそばで遊んではいけませんよ」と常日頃厳しく言い聞かせていたとしましょう。 そこは子供親に内緒で友達と連れ立って魚をすくいに行ってその内の一人が川に落ちて溺れか…

気になる日本語

近頃テレビを見る度に気になっている言葉があります。それは あげる 最高の教育を受け数々の難関を突破してきたであろう知識人のアナウンサーでさえ当然のように使っています。我々の世代の慣例からすれば あげる は自分がへり下つた相手に使う言葉として用…

米寿のバックパッカー

小学校〜女学校と同じ学び舎で過ごしたボケ残り3人、何時お迎えが来 るか判らぬ身なればせめて生ある内に楽しかった昔話でもしてあの世と やらでの思い出のよすがにしようと、某日温泉に入りながら富士山が見 られるとのうたい文句に引かれて河口湖で暫くの…

127865958*[北鮮を追われて}あとがき

この手記を書き初めて間もなくふと思い出したのは超記録魔であった父があの命を賭けた脱出時、暗くなるまで隠れていた墓の陰や山の中の民家の暗い灯りのもとで、せっせと鉛筆を走らせていた姿です。 若しかしたらと家中を探し回ったら有りました!!! 32…

{北鮮を追われて}其の十一

此処まで来ればもう安心。返って裏道をこそこそ歩いて不審者と思われて発砲でもされたらと大通りに出たものの時々道端で遊んでいる子供達に≪イルボンサラミ イルボンサラミ≫と囃し立てられながら、顔を隠すように足元ばかりを見詰めて歩いている鼻先にいきな…

北鮮を追われて   其の十

一夜を温かい人の情けにどっぷりと浸かって過ごしたあくる朝救い主の青年に送られて再び昨日の驛に戻りました。昨日と違って見送り人でごったがえしているのを幸いに人込みに紛れて無事車中の人となることが出来ました。尤も改札口を抜ける時駅員がちらと顔…

{独り言}うば桜のお花見 

家から歩いて7〜8分の処に広い公園があります。 時は春真っ盛り。花を楽しむだけなら車で行けばもっと良い場所もあるけどそれでは飲めないので桜もほどほど道のりもほどほどの公園に、ある晴れた日、カメラと乾き物の肴それとワンカップの清酒をぶら提げて…

北鮮を追われて      其の九

初秋の陽が西に傾きかけた頃一寸した町が見えてきました。私達を街の入り口にあった作業小屋の蔭に隠して何処かへ行っていた金さんがニコニコして帰ってきました。「汽車の切符が買えたので明日は38度線を超えられそうだ」と本当に嬉しそうでした。この街か…

北鮮を追われて       其の八

男狩が始まった頃軍需要員として残っていた主人の居る家族の間で折々に北鮮脱出の計画がもち上がりました。中に電気屋さんがいて ≪高圧線はなるたけ人家から遠い所を通っているがどんな山の中でもその下には見回りの為の道が付けられているから、それを南に…

{独り言}おばさん達が怯えた結婚式

親族の一人に婦警になった娘がいます。子供の時からとても正義感が強く未だ小学生の頃から将来の夢は警察官。女の子らしい習い事は一切無し、休みの日にはせっせと冒険学校に通いアウトドアの知識をしっかり身に付け、短大も福祉関係、部活も剣道に弓と警察…

北鮮を追われて       其の七

この日は平壌を発ってから一番の強行軍でした。思い出すのは未だ明けやらぬ畑の中にいたこどです。さすがに人影も無いので歩きにくい煙草畑を出て農道を急いでいると左側の土手の上に薄らと銃を構えたソ連兵士の姿が。慌てて丈の低い作物の間に身を伏せまし…

{独り言}お客様は何時も神様では有り得ないと言うお話

かなり有名な薬のチェーン店に買い物に行った時のお話。駐車場に車を止めて中に入り40分余りうろうろして重いカートを押しながら車に戻ると若い店員が近寄って≪奥さんさっき駐車場に入る時コーンにぶつかってひき潰したでしょう。僕見ていました。≪えーっ、…

北鮮を追われて      其の六

ほっとしたのも束の間、表で女のけたたましい叫び声と、ばたばたと人の走る足音。やがて静かになるとそっと顔をのぞかせたこの家のオモニーが何やら金さんに囁くと滅多に動揺をしない金さんが「出ましょう」と一言、取る物も取敢えず裏の煙草畑に逃げ込みま…

北鮮を追われて     其の五

人影一つ無い街中を物陰に身を潜めながら何とか無事通り抜け、やっと人家も疎らな農道を急いでいると、背丈ほどに伸びた煙草畑の間から一人の男が現れ ≪日本人だろう?一寸来い≫ と藁葺きの家の方に3人共引っ張って行かれました。金さんが何やら朝鮮語で暫く…

{独り言}引っ掛けようとして引っ掛かった男の子

古い話です。私が未だ高齢者と呼ばれる以前の夏の暑い日、かなり派手なムームー風のワンピースに鍔の広い日よけ帽、サングラスといういでたちで歩いていると道端に停まっていた赤いスポーツカーから「今日は」の声、他人事だと思って通り過ぎようとすると再…

{カリフォルニア}この子恐るべし

これもアメリカ滞在中のお話 かなり晩婚だった私の友人は早々と子供を諦め夫の母国であるバングラデッシュの修道院から生後間もない女の子を養子として迎えました。私が初めて会ったのは三歳ぐらいの時でしたかしら、人種としてはモンゴリアンの山岳少数民族…

北鮮を追われて      其の四

幸いなことに家から大通り一つ挟んだ向かい、前に軍司令部のあった跡がゲーベーウーの司令部になりました。ゲーベーウーとはアメリカのMPと同じで兵隊にとっては鬼より怖い存在です。ソ連にもそれなりの軍規があるらしく、犯行現場を見付けられると有無を言…

北鮮を追われて      其の三

車が自由に使える時代ではなし、汽車は止まったまま、国からの指示は皆無。38度線が封鎖された事など知る由も無い我々は、其の内に帰国命令が出て引き揚げ列車も動くようになるだろうと未だに頼りにならない政府を信じ切っていました。程なく大挙して押し寄…

北鮮を追われて     其の二

満州から疎開して来た人々が引き揚げてから5日も経たない内に朝鮮人の若者が中心になって保安隊なるものを組織し旧日本軍の銃を構えて街をのし歩くようになりました。土足で日本人の家に上がりこんでは ≪日本人は朝鮮から出てゆけ。我々から搾取した物をす…

{独り言}笑顔千両

終点であり始発駅でもあるホームに滑り込んだ電車からどっと人が溢れ出て、空っぽになった車内に又どやどやと人が乗り込みました。ふと見ると隅っこで眠りこけている男性が一人。薄汚れた作業服に草臥れたスニーカー。何処かの工事現場で働いた帰りの様です…

北鮮を追われて     其の一

その頃私は両親と3人で北朝鮮の平壌に住んでいました。終戦も間近かな或る日班長さんが回覧板を持って慌しく駆け込んで≪ソ聯が侵攻して来たので満鉄の人達が避難してくるからお宅も一人受け入れて下さい≫との事。いよいよお出でなすったか。でも満州には百万…

北鮮を追われて  序

今は霧の彼方に消えようとする記憶ですが思い出すままに書き遺そうと思います。あの終戦時の混乱を外地で迎えた人々がどんな思いで死んで行き、又永らえて祖国の土を踏んだか。 もう証人となるのは私達の世代しか残されていないと思います。満蒙の奥地で人知…

{独り言}女学生のいたずら

若い人達にとっては歴史的出来事ほど遠い平和だった頃のお話。 毎冬一度は全校でスケート大会が催されていました。この日は狭い校内のリンクではなく漢江という府内第一の大河に大挙して出掛けます。勿論体育の先生以外も。この春内地から赴任したばかりの若…

帽子のトライアングル

頃は大正の末。久し振りで息子に逢う為に上京した祖母が帰るときのお話。 特急列車が有ったか無かったかも定かではありませんが、見送りに来た父も座席に座り込んで暫しの別れを惜しんで立ち去りました。程なく発車のベル(笛?)が鳴り響きました。ふと見る…

アメリカのバースデーパーテー

日系二世の友人の招きでアメリカ西海岸の丁度ロサンゼルスとサンフランシスコの中間にある漁港の町に三ヶ月近く滞在した時のお話。仮に友人の名前をメリーさんとしましょう或る日メリーさんの友達からバースデーパーテーをするから日本からの客人もどうぞと…

汝ますらおと言えども腕力を過信する勿れ

これも遥か昔、20kgの荷物を担いで山々をうろついていた頃のお話。若い男の子の様なピークハンターと違い大汗をかかない程度、息の上がらない程度のペースでゆっくり歩いて山の花々を愛で梢の囁きに耳を傾け、降る様な星空の下で眠る。至って気ままな山…