汝ますらおと言えども腕力を過信する勿れ

これも遥か昔、20kgの荷物を担いで山々をうろついていた頃のお話。
若い男の子の様なピークハンターと違い大汗をかかない程度、息の上がらない程度のペースでゆっくり歩いて山の花々を愛で梢の囁きに耳を傾け、降る様な星空の下で眠る。
至って気ままな山女の為殆ど単独行。
必然的に共同装備も一人で持たなくてはならない為、前述の様な重装備になってしまう。
ある山行の為九州のローカル線に乗った時のお話。
未だSLの時代、背もたれも肘掛も荷物だなも木製。
段々混んできたので何とかリュックを荷物棚に上げようとしたものの女の細腕では20kgを眼より高く差し上げるのは至難の業。
仕方なく手すりに引っ掛けて通路の邪魔になるなあと遠慮しながら座っていました。
何処かの驛でどやどやと大勢乗り込んで、私の横にも若い男の人が立ったと思ったら開口一番「荷物は荷物棚に上げろ」重くて上げられないと言うと「自分で扱えない様な荷物を持つな」と言っ、どうせ女の持てる程度の荷ならたいしたことは無いと思ったのかご親切にも手摺りから外して棚に上げようとしました。
が、荷が重過ぎたのか彼が非力だったのか、上がったのは胸まで、どうしても目より高く差し上げることが出来ず、リユックを通路に放り出すと口の中で何やらぶつぶつ言いながら何処かに行って仕舞いました。
男の面目まるつぶれ。
<自分の能力を過信するなかれ>の見本でありました。