{カリフォルニア}この子恐るべし

これもアメリカ滞在中のお話
かなり晩婚だった私の友人は早々と子供を諦め夫の母国であるバングラデッシュの修道院から生後間もない女の子を養子として迎えました。私が初めて会ったのは三歳ぐらいの時でしたかしら、人種としてはモンゴリアンの山岳少数民族が山伝いにインドの奥地に来てそのまま住み着いた人達の末裔だそうです。色の多少黒いのを除けば日系三世である母親の実子と言っても誰も疑わないほど日本人の女の子にそっくりです。ところが決定的な違いはリズム感と運動神経。たった三歳というのにトランポリンの上では自分の背丈の半分は飛び上がるし、庭のパインツリーの大木に吊り下げたブランコには空中サーカスよろしく、揺らしておいて飛び乗ろうとするし、これが時々お漏らしをしてママに叱られている女の子?テンポの速い音楽を聴けば正確にリズムに合わせて踊るし、日本の三歳児と比べて驚くことばかり。それよりもっと驚いたのは、状況判断の的確さ。花卉栽培については聊か自信のある私は行く度に色々な剪定を頼まれていました。ここ数年、足腰がすっかり弱ってバラの剪定をするのにガーデンチェアーと言う箱に車輪を付けた様な物に腰掛けて仕事をするようになっていました。所がこの椅子、背が低すぎて立つのに一苦労。 ≪クリシー!ヘルプミー≫ で飛んできた彼女に手を引張って立たして貰うのも楽しみの一つでした。所が或る日、腰を下ろしたまま移動しょうとして失敗バランスを崩して仰向けにひっくり返ってしまいました。それこそ本当にヘルプミーです。私の叫び声に何時もの様にキッチンのドアから出てきた彼女はひと目見るなり凄いスピードで私の横を駆け抜け ≪ダーリー≫ と連呼しながら父親の働いている農園の方に消えて行きました。 倒れている状況をひと目見ただけで自分の手に負えないと判断して救援を求めに行く、三歳児にしてこの的確な状況判断。 不毛の山岳地帯で少数民族として生き残って来る間に培った先祖のDNAがこの子にも脈々として受け継がれているのでしょう。この子の将来を見届けるだけの残り時間の無いのが残念です。