帽子のトライアングル

頃は大正の末。久し振りで息子に逢う為に上京した祖母が帰るときのお話。
特急列車が有ったか無かったかも定かではありませんが、見送りに来た父も座席に座り込んで暫しの別れを惜しんで立ち去りました。程なく発車のベル(笛?)が鳴り響きました。ふと見ると息子の座っていた跡に中折れ帽子がひとつ。慌てた祖母は窓から首を出して駅員を呼び、忘れ物だからXXX会社の○○に届けて欲しいと頼んだそうです。幸いXXX会社で通じるほど名の通った会社だったらしく駅員も快く引き受けて呉れたそうです。{あのうっかりものが}と口の中でぶつぶつ言いながらやっと座席に落ち着いていると、一人の紳士が現れ「わし、ここに帽子を置いて席を取っといたんだがあんた知らんか?」 帽子こそいい迷惑、驛ー会社ー紳士の住所のトライアングルを駆け巡った事でしょう。一族の間で長いこと茶飲み話の種にされました。  その子孫も皆,可也の慌て者です