{独り言}笑顔千両

終点であり始発駅でもあるホームに滑り込んだ電車からどっと人が溢れ出て、空っぽになった車内に又どやどやと人が乗り込みました。ふと見ると隅っこで眠りこけている男性が一人。薄汚れた作業服に草臥れたスニーカー。何処かの工事現場で働いた帰りの様です。 がっちりした体躯に日焼けした顔、短く刈った髪。今時の吹けば飛ぶような若者にしては珍しいタイプ。新しい乗客はじろじろ見て通るのに知らんふり。お節介好きの悪い癖がむくむくと頭をもたげわざわざ歩いて行って肩をゆすり≪終点ですよ≫ とたんにぱっと立ち上がり≪済みません≫の一言を残すと慌てて降りて行きました。ところが車窓のむこうで、片手を振りながら真っ白い歯を見せて去ってゆきました。其の笑顔の何と素晴しかったこと。こんなささやかな出来事に心がほのぼのするなんて、あまりにも絆薄い世の中になったせい?