コックさんに拍手

ティーオーケストラの一員である友人の娘が或る日突然言い出した。『近々各パートのトップだけで持ち寄りパーティーをすることになった。貴女の来ていることは皆知っていて、楽しみにしているのでよろしく』と言われて、はたと思い当たった。以前お正月に二回滞在しておせち料理をつくりオープンハウスをしたことがありました。広いダイニングルームの大テーブルに色とりどりの日本料理を並べ、客人は自分の好きな時間にやって来て、ペーパープレイトに好きな物を取り好きな場所に腰を下ろして楽しそうに談笑していました。多分あの中にメンバーも混じっていたのでしょう。それとは異なり今度は野外。おまけに片手にワイングラスを持ったまま食べられるもの?さんざん考えた挙句串カツにきめました。片手にワイングラス片手に串。中々様になります。さあ、それから思いつく限りのネタ探し。牛、豚、鶏、海老、マッシュルーム、玉葱、ポテト、プチトマト、アスパラのベーコン巻き、 兎に角物価は安いし食べ物には税金の掛からない国なので15〜6人分を集めても日本の名のある料亭の会席一人分より遥かに安く上がりました。 さて当日。借りきりにしたバーの中庭でエプロン姿も甲斐甲斐しく電気天ぷら鍋を前に揚げ始めると、次々と人が集まり親しそうに話し掛けます。多分、元気そうだね、何時来たの、何時まで居られるの、とか言っているらしい。<ワタシハコトバガワカラナイ♪> 第一白人の顔の見分けがつかない。  持ち寄りパーテーの筈が集まったのはサラダが三皿。一寸した屋台程積み上げてあったネタが私が味も見ない内に空っぽになってしまった。
そろそろ海風が冷たくなった頃お開き。誰かが何か大声で叫ぶと一斉に私に向かって盛大な拍手。どうやら散会の拍手でもないらしいので怪しげな発音で「フォアミー?」と聞くと更に盛大な拍手が。見かねた娘が寄ってきて『コックさんに拍手と言っているのだから何とか言いなさいよ』と言われたって「ワタシハコトバガワカラナイ♪♪」精一杯の笑顔で頭を下げるばかり。その後一人一人が握手をして去って行きました。家にいてもこんな機会は度々ありましたがこんなにし  ゃれた感謝表現を受けたのは初めてです。日本人特有のテレがこれほどストレートな感情表現を妨げて居るのかも知れません。 が、された私も多いにテレました。