グレーハウンドバスで逢った女の子

今は昔、初めてアメリカに行った時の赤ゲットウ物語。海外ではお金よりパスポートの方が大事だと先達から散々叩き込まれて来ました。滞在先の私の部屋は一番奥。キッチンからそこまでに外に通じるドアが二箇所。おまけに鍵を掛ける習慣も余り無い。尤も不審侵入者がコヨーテや鹿ではパスポートなど目も呉れないでしょうけど。散々考えた末、使われていないデスクの上で埃を被っていた電気スタンドの傘の中にぶら下げました。某日我々の共通の友人が訪れ私の部屋で同宿することになつたのですが部屋を行き来する度に何ともいえない異臭が漂ってくるのに気が付いてあちこち嗅ぎまわった末辿り着いたのが私達の部屋。異臭の元は私のパスポート。つけた事もない電気スタンドに赤々と灯が点っています。そんないきさつを知るべくもない友人が点灯したのでしょう。慌てて手に取ったが時既に遅し、電球の触れていたパスポートの真ん中が丸く焼け抜けていました。恐る恐る開くと顔写真を中心に裏まですっぽり焼け抜けていました。それから大騒動。あちこち電話で問い合わせた挙句ロサンゼルスの外務省の出先機関迄再発行の手続きに行かなくてはならないことが判明しました。折りよく新婚旅行の途中に挨拶によった若夫婦のレンタカーに同乗させて貰いロスまでは無事に辿り着き高齢者へのサービスか手続きもすんなり終了。さて、帰りはどうするか? 小さな国内線に乗るなんてヒコーキ恐怖症の私に出来るはずもない。考えあぐねて辿り着いたのがグレーハウンドの長距離バス。かの有名なマリリンモンローのバスストップに登場していたバスだと、ルンルン気分で乗り込んだら‥‥‥
一見ヒスパニックかヒッピーと思える、むくつけき髭面の男達ばかり。まさか私を熟女とは思わないにしても、これでも女の端くれそんな怪しい男の隣に座るのもと、車内を見回すと15〜6のアフリカ系の女の子が一人。地獄に仏とばかり隣に腰を下ろしました。何故か持ち物はスニーカーの箱が一つ。えーっスニーカーを一足買うためにグレーハウンドに乗ったの?と思ってもワタシハコトバガワカラナイ とても人懐っこい子で「ベトナム?」「ノージャパニーズ」と言うと目を丸くして「どうして飛行機に乗らないの?」と言ったらしい。「私は飛行機が嫌いだ」 これ位は喋れる。その内に「香水は好きか」と聞いてきたので「イエス」と答えると、肩に掛けた小さなバッグの中をごそごそかき回して小さなアトマイザーを取り出すと私の手首にさっと、ひと吹き
にこにこしながら嗅いでみろというジェスチャー かわいい!!!!!  お返しに千代紙細工の人形に入れた爪楊枝を上げると、しげしげと眺めて大事相にバッグにしまいこんだ。かくて言葉の通じない者同士楽しく道中を過ごしたと言うお粗末。