昔取った杵柄

今や五十路の坂を越えた甥達が未だ小学生だった頃「スケートに連れてって」とせがまれました。日頃「伯母ちゃんの子供の頃は冬の遊びはスケートしかなかったから、スケートなんて靴代わりだ」と散々吹いていたので今更後にも引けず、30年のブランクを危ぶみながら市中のスケートリンクに出かけました。子供達は自分に合ったスケート靴を借り出すと嬉々としてリンクに走って行きました。それからおもむろに私の靴選び。フイギュアを頼むと出されたスケートのエッジの甘い事。「こんな甘いエッジで滑れるものか」と次々選りまくっていると見兼ねたのか係りの人が「これで普通ですよ。お客さん今まで何処のリンクで滑っていたんです」と問いかけたので大威張りでソウルと答えると「あちらの天然氷と違ってこちらの氷は柔らかいのでこれで十分なんです」と有無を言わさず押し付けられました。不承不承リンクに出てみると、水煙を上げては大げさにしてもリンクばびしょびしよ。急制動を掛ければ火花の出るような硬い氷に慣れた者には異様な光景でした。何しろスケートを履くのも30年振り滑るどころか氷の方が勝手にあちこち動き回って立っている事すら出来ない。
よたよたしながら、やっと回りの手すりまで辿り着き先ずは体慣らし。チビ共はそんな哀れな私の方を見る余裕もなく真ん中で派手にひっくり返っている。30分も手すりにしがみついていると何となく記憶が蘇って手を離して、すいすーい デモナイカ その内バックも出来るようになり甥達の事を忘れて大はしゃぎ。流れを外れて一休みしていると、高校生らしい女の子が2〜3人寄ってきて「小母さんさっき迄手すりに掴まって私達の前をよたよた歩いてましたよね。どうしたらそんなに早く上手になれるんですか?」「実を言うと小母さんは子供の頃寒い地方で育ったの。冬の遊びはスケートしかなかったので小学校に入る頃は皆スケートを買ってもらっていたのよ。大人になってからは一度も滑った事がなかったので、手すりに掴まって感覚が戻るのを待っていたの」と言うと納得!! と言う表情で又手すりに戻って行きました。今ならきっと50を越えた甥共に「年寄りの冷や水」と叱られるかもしれませんね。