雛祭りの桜もち

毎年ささやかな夫婦雛を飾る度に思い出す楽しかった出来事があります。
私の学んだソウルの女学校では雛祭りには5年生が朝から桜もちを作って、お弁当の時間に全校生徒に配ってくれます。何せ学生のことなので道明寺のように手の込んで物ではなく、溶いた小麦粉に食紅でほんのりピンク色を付け、薄く焼いた中に餡を包み塩漬けの桜の葉で巻いただけのシンプルな物でしたが、学校でお八つが出るなんて当時の学生にとっては夢のような話です。昼食時になると上級生が、開いたお弁当箱の蓋の上に良い香りのする桜もちを1個づつ乗せて行ってくれます。放課後有志で、折からの支那事変で出征中の担任の先生の留守宅にもお届けしました。私達は四大節に学校で配られる業者の作った紅白の大きなお饅頭より、このささやかな桜もちを楽しみに三月三日を待ちわびていたものです。